「うっ、ひっく……怖いよ……っ」


ここ数日、縁は不安しかなかった。


スマートフォンで遠距離恋愛について検索をしたら、破局したケースばかりがごろごろと出てきた。


どう足掻いても、距離が離れてしまうと寄り添っていた心も離れてしまうのか。
依人の中から自分がいなくなってしまう日が来てしまうのか。


(先輩がほかの人を好きになるなんて、想像するだけで胸が痛い)


胸が張り裂けそうになり、夜は中々眠れなかった。


縁は鈴子に抱き着いて、ただただ静かに嗚咽を零し続けた。







キッチンに甘い匂いが漂いだした頃、縁の涙腺は落ち着きを取り戻した。


「落ち着いた?」


鈴子は優しく微笑みながら、ハンカチで目尻に溜まった涙を拭い取る。


「うん……ありがとう」


縁は泣き腫らした目を恥ずかしげに伏せてお礼を言った。


「こんなに腫らして……今まで独りで泣いていたんでしょ」

「うん……最初お母さんを無視しちゃったから、これ以上泣いて困らせちゃいけないって無理して笑ってたの」

「あたしがいる時は無理しなくていいわよ。受け止めてあげるから」

「ふふっ、鈴子ったら男前」

「嬉しくない褒め言葉」


鈴子は口ではそう返していたが、笑みが零れていた。


(鈴子、あたしの友達でいてくれてありがとう。本当に感謝してもし足りないよ)


「ありがとう、鈴子」


縁は鈴子に心から強く感謝した。






オーブンから焼き上がりを知らせるアラームが鳴り出す。


ミトンをはめて、オーブンを開けると、甘いチョコレートの香りが鼻をくすぐった。


「どう?」


オーブンの中を覗き込む鈴子に、縁は親指をぐっと立てた。


竹串で生焼けがないかを確認した後、二人は試食と称したティータイムを始めた。


「美味しい」

「これなら渡せるわね」


口に入れると、程よい甘さと苦さと、中に入っているくるみの香ばしさが広がった。


出来栄えは自画自賛してしまうほど成功した。


試食を終えると、粗熱が取れたブラウニーをラッピングをし、チョコレート作りは終了した。


「頑張ってね」

「鈴子もねっ」


二人はお互い健闘を祈りながら、バイバイと別れた。