試験から数日後、この日は三年生が登校する日なのだが、依人から音沙汰は無かった。


授業が始まる前、縁は二回ラインで依人宛にメッセージを送ってみたのだが、午前の授業が終わっても返事はおろか既読すら付かなかった。


(先輩どうしたの? まさか……)


縁はネガティブなケースを思い起こしかけ、かぶりを振って必死に打ち消していく。


今日は試験の合否が分かるのだ。


(こんなことなかったから、心配だよ……)


昼休み、縁は自分の席で悶々と考えていると、


「縁っ」

「ひぇっ!」


突然、後ろから突進するようにぎゅっと抱き着かれた。


振り向くと、そこには白のランチトートを手にする鈴子がいた。


「もう、びっくりしたよ」

「ごめんって……縁、朝から浮かない顔してどうかしたの?」

「あの、先輩から――」


縁が鈴子に話そうとした矢先、手に持っていたスマートフォンが静かに震えた。


通知にはラインのメッセージの受信の知らせがあった。


画面に指を滑らせてアプリを起動させる。


メッセージの送り主は依人だった。


“返事すぐに返せなくてごめんね。昨日から風邪を引いて今はだいぶ熱は下がったけど、移すといけないから休んでる。ちなみに試験は無事受かりました”


メッセージを読むと、縁が思っているより依人は気を張っていたのかなと思った。


「先輩からなんて来たの?」

「風邪を引いたから休んだって。あと、試験受かっていたって……!」

「流石ねぇ……今日お見舞いに行くの?」

「うん。放課後になったら行こうかな…… 来てって頼まれてないけど、心配だもん」


本当は学校をサボって行きたいくらいだが、この進学校で学校をサボるのは不真面目な生徒のする行いと言う認識が強い。


「その方がいいかもね。桜宮先輩って縁の話を聞く限り食に無頓着っぽいし。風邪の時食べなさそうなイメージがあるわ」

「それが心配なんだよね……一応、聞いてみる」


縁はスマートフォンを操作し、依人宛にメッセージを作成した。


“合格おめでとうございます! 受験で疲れが溜まっていたんですよ。ゆっくり休んでください。放課後、迷惑じゃなかったらお見舞いに行ってもいいですか?”


(こういう時、彼女はどう行動したらいいんだろ? あんまりメールとか送らずにそっとした方がいいのかな?)


送信した後、縁はそわそわした。


送ってから数分後、依人から返事が来た。


“放課後、俺の家に来て? 縁の顔を見たら元気になりそうな気がする”


「っ!」


びっくりしてスマートフォンを落としそうになった。


風邪を引いても依人の甘さは通常運転であった。