思いも寄らぬ告白に縁は驚きを隠せず目を見張った。


(どうしてあたし? 言葉を交わしたのは今が初めてなのに……)


「佐藤さん、なんで? って顔してるね」

「えっ」

「結構分かりやすいよ。顔に出やすいみたいだね。ふふ」


井坂は目を細め、声に出して笑った。
それに対して縁は顔を俯かせ、小さく縮こまった。


「好きになった理由はね……佐藤さんがオレの好みだからだよ」

「へ……?」

「可愛くて真っ白な感じがいいんだよね。オレの色に染めたくなる」


(なんだろ……この嫌悪感……)


縁は井坂の言っていることを理解出来なかったが、本能が、彼が危険だと訴えかけていることを自覚した。


「オレの彼女になってくれない?」

「ご、ゴメンなさいっ!」


言わずもがなノーだ。


「あたし、お付き合いしている人がいて……」

「知ってるよ。桜宮先輩だよね」


断りを入れたにも関わらず井坂は、落ち込んでいる様子を見せない。


(知ってて告白したの……?)


縁には井坂の真意がよく分からなかった。


「あたし、先輩のことが好きなの。だから、井坂くんに応えられない」


縁は頭を深く下げてごめんなさいと再度告げた。


「じゃあ、桜宮先輩と別れて?」

「わ、別れないよっ」


(先輩に振られるまでは別れないもん!)


「そう言うなら二番目でも構わないよ」

「それも無理です……!」


縁は断固拒否と言わんばかりに大きくかぶりを振った。


「チッ」


その時、井坂の舌打ちが耳に届いた。
恐る恐る井坂の顔を見ると、人の良さそうな笑顔が目に映る。


しかし、縁はその笑顔に恐怖を感じ、思わず後ずさりをした。


「佐藤さんって意外と手強いねー。たいていの女はオレがお願いすると彼氏を捨ててオレを選んでくれるのに」

「あたし、先輩がいなくてもあなたを選ばないよ……」


縁は嫌悪を隠すのをやめて、睨みつけるように井坂の顔を見詰めた。


視線が重なった瞬間、井坂の笑みニヤリと怪しいものに変わった。


「縁ちゃん、覚えといて」

「え……?」

「縁ちゃんみたいな子が睨んでも、男を煽らせるだけだから――」


その時、縁は何が起きたのか理解することが出来なかった。


「んんっ!」


気付いた時には、既に井坂に抱き締められて、縁は食べられるように唇を塞がれていた。


(嫌!)


依人ではない人とする口付けは、気持ち悪くて吐き気を催してしまう。


何度胸を押し返しても、縁のか弱い力は井坂にびくともしなかった。


縁の両方の瞳からは涙が溢れ、頬を何度も濡らした。


ようやく唇は解放されたが、井坂の腕の拘束は離れない。


「縁ちゃん、泣き顔も可愛いね」

「最低……」

「オレは欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるタイプなの。これで桜宮先輩に顔向け出来ないでしょ。早く別れてオレのとこにおいで」


井坂は縁から離れると、悪びれる様子もなく先ほどの人の良さそうな笑顔を浮かべながら縁に手を振って離れていった。