「先輩っ?」


腰に回った手に驚いてしまい、縁は素っ頓狂な声を上げてしまった。


手を繋いだ時と比べて密着する距離に、縁の鼓動はまた暴れ出す。


(恥ずかしいよ……離してください……)


縁はじいっと訴えかけるように見つめるが、依人はその手を依然として離す気はない。


「こうした方がはぐれないでしょ?」

「でも……」


(こんなにも近い距離は、心臓がおかしくなりそうだよ)


距離が近いせいで依人の体温と鼻をくすぐる淡く爽やかな香りがある。


それが縁の鼓動を更に逸らせた。





目当ての林檎飴をお揃いで買った後、それを食べながらゆっくりと屋台を見て回る。


途中、射的に目が止まり、ちらりと見ると、賞品の内容が書かれた的が沢山並んでいた。


(図書券五千円分! 単行本が二三冊買えるよっ)


その一つの的に縁の目は輝き出した。


「射的したいの?」

「はいっ。いいですか?」

「いいよ」


依人はふわっと笑みを浮かべると、射的の店へ連れて行ってくれた。


早速お金を払って、図書券を手に入れるべく奮闘するが、何度挑戦しても目当ての的は当たらない。


(難しいな……鈴子ならすぐに当てられるだろうに)


縁は弓道部に所属する鈴子の顔を思い浮かべた。


「図書券欲しいの?」


ふいに依人にぽんと肩を叩かれる。


「はい。どうして分かったんですか?」

「縁のことなら分かるよ」

「……っ」


依人の発言に縁の鼓動は高鳴った。


自分のことを見てくれているんだと思うと、胸が熱くなっていく。


「取ってあげるよ」


依人は店員にお金を払うと、コルク栓式の銃を構えた。


そして、見事に図書券の的を当てて落とした。