それから数日後の八月初旬。
いよいよ祭りの日がやって来た。


縁は紺地に椿が描かれた古風な浴衣を身に纏い、緊張した面持ちで待ち合わせの駅まで向かっていた。


本当はこの日も依人は縁の自宅まで迎えに来る気でいたが、縁は用事があるからと待ち合わせを駅前にして貰った。


その用事とは美容院に寄ることだった。


縁は浴衣の着付けは出来るが、ヘアアレンジやメイクは苦手だった。


鈴子にお願いしようと思ったが、鈴子もその日は彼氏と出掛ける予定があったので、美容院に予約したのだ。


毛先がふんわりした黒髪のボブヘアーは、ハーフアップされており、赤いリボンを模した髪飾りが付けられている。
普段、アイブロウと色付きリップクリームくらいしかしないほぼすっぴんの顔は、メイクによっていつもより少し大人っぽくなった。


駅前に到着するすると、まだ待ち合わせ時間まで三十分以上あった。


縁は小さな鞄からスマートフォンを出すと、依人宛てにメッセージを打った。


“用事が早く終わったので駅前にいます。時間はあるのでゆっくり来て下さいね”


笑顔の顔文字を添えて送信すると、スマートフォンを鞄の中に戻して、駅から続く大通りを眺めながら依人を待った。


メッセージを送信してから十分後。


ゆっくりでいいと言ったはずだが、依人が縁の元へやって来た。


「早いですね……っ」

「ちょうど向っていた時だったからね」


なんて依人は笑顔で答えているが、息が少し上がっているのは気のせいだろうか。


思っていたより早く来たことに驚いたので、今ようやく気付いたが、依人は浴衣に身を纏っていた。


生成りの浴衣は派手さはないが、依人にとてもよく似合っていた。


(神社が血の海になるかも……悩殺的な意味で)


鬼に金棒とはこのことか。
美形の和装は上品かつ色気がだだ漏れで、縁の鼓動をいつもより逸らせた。