「そうだね。北川さんの言う通り、縁は本当に頑張っていたから用意してあげなきゃね」

「だって、よかったね」

「ひゃっ!」


鈴子は縁にやんわりとひじで小突くと、わしゃわしゃと犬や猫のように頭を撫で回した。


「縁、ご褒美なにがいい?」

「そんな、気持ちだけで充分ですよ? お祭りに連れて行ってくれるだけでも立派なご褒美ですからっ」


鈴子に撫で回されて乱れた髪をそのままに、縁は照れ気味に呟いた。


「祭り以外はないの? なんでも言ってみて」


依人はくすっと笑いながら、手櫛で縁の髪を直す。


「えっと」


(いきなり言われても分からないよ……)


何も思い付かず、戸惑ってしまう。


「まあ、考えといて」

「は、はい」

「また放課後」


依人はまた縁の髪を撫でると、立ち去って行った。







「何でも言ってって、愛されているわねー」


もう少しで午後の授業が始まるので、移動していると鈴子はにこにこしながら縁を茶化す。


「そんな、好きなのはあたしだけだよ……」


縁は鈴子の言葉を否定するように小さくかぶりを振った。


(自分で言ってて悲しい……)


「何を根拠にそう思うの?」


鈴子は縁の発言を信じられないと言いたげに訝しむ。


「だって、先輩はあたしを送り迎えする時、一人で歩かせたくないって……それってあたしのこと子どもにしか見てないって意味でしょ? きっと、あたしは暇つぶしなの」

「それはね……」

「それにっ、まだ、先輩はしてこない……き、キス」


蚊の鳴くような声で鈴子に耳打ちすると、


「それならご褒美は――――」


鈴子は誰にも聞こえないように縁に耳打ちした。


それを聞いて縁の頬は瞬時に赤くなる。


「そんな、あたしから言うなんて……っ」

「大丈夫。縁がお願いしたら、絶対先輩喜んでくれるって」


鈴子は縁に親指を立てて、自信満々に言い切った。