「よかったわね」


鈴子は縁をそっと降ろすと、優しく髪を撫でた。


「先輩のお陰だよ。どれだけ感謝しても足りないよ」

「それなら、ご褒美をねだらなくっちゃね……」

「へ?」


鈴子は唇の口角を上げて、企みを含む笑みを浮かべると、突然腕を上げて手を大きく振り出した。


「桜宮先輩ーっ!」


鈴子の声は周囲の耳に入るほどはっきりと大きな声だった。


(ひえっ、凄く注目浴びてるっ)


数多の生徒の視線が縁と鈴子に集中する。
特に依人ファンの女子生徒の殺し屋と見紛う睨みが圧倒的に多く、矢のように縁に突き刺さった。


鈴子の声は数メートル先の依人にも届いのか、縁と鈴子の方へ視線を向けた。


依人は「ごめんね」と言いながら人ごみを掻き分けて二人の元へ近付いた。


「こんにちは……」


縁は鈴子の手をぎゅっと握ったまま、頬を染めて窺うように挨拶をした。


「こんにちは」


依人はふんわりした微笑を浮かべながら、縁の頭をぽんと優しく撫でた。


(久し振りの会話だ……)


試験中の間、挨拶程度のラインのやり取りしかせず、顔を合わせなかったので、依人の声に胸がぎゅっと締め付けられていく。


「縁の結果見ました?」

「ああ、見たよ。凄いね」


鈴子の問いに依人が答えると、鈴子の瞳がきらきらと輝きだした。


「頑張ったから、先輩から縁にご褒美あげてもいいんじゃないですか?」


(鈴子っ、何言ってるの?)


まさか本人にそんなことを言うとは夢にも思わず、狼狽えてしまう。