会社のビルを出て駅に向かって足を踏み出すと、後ろに誰かが近付いた気配を感じた。

「矢崎……」

 その声に振り向くと、課長が立っていた。


「あっ。お疲れ様です」

 私は驚きつつペコリと頭を下げた。


「お前の言う通り、姫川は突然笑い出すんだな」


「分かってもらえました? でも、あの笑い声に救われる事が多いんです。」


「そっかぁ」
 課長は、私の横に並んで歩き出した。


「でも、私が言っていた事は皆に黙っていて下さいね」

 お願いするように、チラリと私の肩よりかなり上にある課長の顔を見た。


「ええ――。黙っていられるかな?」
 課長は意地悪そうに笑った。


「絶対ダメですからね! 私にも立場ってものがあるんですから」


「立場ねえ……」

 又、課長は意地悪そうな顔でニヤリとした。


 この人、以外に意地悪かも……



「課長は、家どちらなんですか?」

「ここから、二駅先」


「ああ、じゃあ同じ方向ですね……」

 そんな会話をしながら、駅に近づくと、ラーメンのいい匂いが、鼻の前を通り過ぎて行く。

 お昼の後はチョコレートしか食べていない。

 がまんしようと思うのに、お腹の虫が音を立ててしまった。

 もしや、聞こえたのではと頬が赤くなった顔を下に向けた。


「ラーメン食ってくか? 俺も腹減った……」

「で、でも……」


「どうせ、コンビニで弁当買うつもりだったから付き合えよ」


 課長はラーメン店のドアを開けて入ってしまった。

 仕方なく課長に続いて店に入ると……


「いらっしゃいませ!」

 威勢のいい店員の声とともに、とんこつラーメンと餃子の匂いに負けた……