今、なんて? 

 美羽って言った?


 一瞬我を忘れたが、額の痛みが蘇ってきた。


「うっ……」

「おい、大丈夫か?」

 課長が戻ってきて、私の肩に手をかけた。


「課長! 矢崎さんを病院へ連れっていった方がいいです」
 
 姫川さんが泣きそうな声で言った。

「ああ!」


「でも、私、幹事だからお金…」


「ばか! そんなの私がやっておくわよ」

 姫川さんの怒った声と同時に、宮本くんが、慌てて私の鞄を持ってきた。

 姫川さんが、鞄を開け集金した封筒をだす。


「課長! タクシー来ました!」

 藤川さんの声が響いた。

 いつの間にかタクシーを呼びに行ってくれたようだ……


 課長が私を抱きかかえるように立たせた。


 タオルで私の額を押さえる課長に佐藤さんが近付いて来た。

「小山の事は、俺が話をつけておくから心配するな……」


「すみません……」

 課長が頭を下げる。

 しかし、佐藤さんは課長をキツく睨んで、もう一度口を開いた。


「お前、遅せぇんだよ! 見ていてイラつく! 今度、グダグダしやがったら、俺が矢崎もらうからな!」

 佐藤さんのいつもと違う口調に驚いて見入ってしまったが……

「すまない……」

 課長はそれだけ言うと、私を抱きかかえた。


「え~~ 佐藤さん綺麗な奥さんが居るじゃないですかぁ?」

 宮本君の呆れたような声が聞こえる。


「うるせぇ。余計な事言うんじゃねぇよ! カッコよく決めたのに!」


「どうして僕が怒られるですかぁ?」

 宮本君のいじけた声を背に、課長に支えられるようにタクシーに乗り込んだ。