小山さんのアパートをドアをノックする。

 何にも考えていないような呑気な笑顔がドアを開けた。


 一歩中に入り、散らかった部屋を見渡す。


「仕事は?」


「ちょっと、調子わるくて休んだ……」


「そう…… でも、私仕事に責任の持てない人とは付き合えない……」

 冷静な口調で言ったのだが、小山さんの目は急に悲し気に変わった。


「別れるなんて言わないよな?」


「ごめんなさい……」


「ちゃんと仕事するから……」

 小山さんは、涙を流し出した。


 その姿が、今にも泣きたい自分の姿と重なって見えてしまった。

 情が出る程の長い付き合いでは無いのに、なんだか哀れに見えてくる。


「……」

 私は泣き崩れる小山さんの姿を、黙って見つめた。

 たとえ、小山さんと別れたところで、自分の隣に誰も居なくなるだけだ……


「別れるなんて嫌だ…… 頼む……」

 小山さんの涙ながらの声に私は黙って肯いてしまった……


 小山さんの手が、私の肩に伸びてくる。


 小山さんに抱かれても、何の幸福感も無い……


「今日は帰る……」


 私はアパートを逃げるように出た。


 情けない自分が、悔しくて、初めて後悔という苦しみを知った。