彼を支えるために私はどうしたら良いのか、そればかりを考えていると、まず私が俯いてばかりじゃいけないなと一番にそう思った。
辛い想いさせるなら、別れを選んであげたいとそう考えていたけれど、それは違うのかもしれない。今はそばにいて支えてあげたいと、心からそう思うよ。
だって私、黒野くんのことが大好きだから。
つい半年前までは、恋も愛も信じていなかったし、目に見えないものなんて、あてにしていなかったけれど、今は違う。恋をして、愛を知った。
私ね気づいたんだけど、黒野くんに幸せにしてもらいたいんじゃないの。
黒野くんのことを幸せにしてあげたいってそう思うんだ。
もちろん愛してほしいけれど、それ以上に愛したい。
求めてばかりの子どもはもう卒業したいんだ。ううん、した。もう私は、大人になる。
泣いていたって、人生は変わらない。
「よし……」
洗面台の鏡に映る私。白い歯を出して笑う練習をすると、頬を軽く叩いた。
黒い髪の毛は内巻きに緩く巻いてある。ナチュラルを心掛けたメイクも、半年前の私より目は小さいけれど、ずっと好き。
ねえ私、夢をひとつ叶えてもいいかな?
君に、名前をつける夢をどうしても叶えておきたかったんだ。
たぶんね君は、私の勘によると男の子だったから、名前は“愛生”と書いて、“あいき”にしようってずっと考えていた。
まあ、女の子でも“愛生”と書いて“あいく”にするつもりだったけど、どう考えても、くよくよする私をつわりで檄を飛ばしたり存在感を放っていた君は男の子だろうと推測せざるを得ない。母親が言うのだから、間違いないよね、きっと。
ねえ、愛生。私、強く生きるよ。大好きな人を支えられるぐらい。
そうやって頑張って頑張って、この先ずっと生きていたら、また君は私のもとへ来てくれるだろうか。……ううん、来てほしい。
また私のもとへ宿ってあげてもいいよって、そう思ってもらえるように今日からまた私、頑張って生きるから、天国で見ててほしい。
「おはよう!」
「お、おはよう……? 一体どうしたの、志乃……?」
昇降口で見つけた楓の背中に明るく挨拶すると彼女が肩を揺らしてびっくりしていた。それを見て笑うと私はぼうっとする彼女を追い越して教室に向かう。
歩くスピードが上がる。ずっと下を向いて暗い気持ちでいたけれど、前を向いたらこんなにも見える景色が変わった。



