純な、恋。そして、愛でした。



黒野くんは、このままでいいと本気で思っているのだろうか。
もし、黒野くんに辛い想いさせているのなら、私は別れを選んであげたい。


この現状がいつまで続くかわからないけれど、もし半永久的に私が黒野くんのことを拒否してしまうのなら……。


これは私の本音だったり、本音じゃなかったりするんだけど、他の女の子と幸せになってくれるなら、それでもいい。


黒野くんのことが好きだから幸せになってほしい。それが私の隣じゃないとしても、幸せになってくれるならそれで……。


だけど好きだから他の女の子のところに行ってほしくなかったりもする。


どっちが本当に“相手を想ってのこと”なのだろう。
彼のことを想い、身を引くのと、彼のことを想い、そばにいること。


私にはわからないな……初めて本気で人のことを好きになって、好きになってもらった。
ふたりにとってなにが最善かなんて、わかんないよ。





空が青い。店番をしながらそんなことを思った。


クリスマスまであと十日と迫った土曜日。この時期のケーキ屋は多少忙しい。
先程までクリスマスケーキの予約が殺到していたのだけど、今は幸いと言っていいのかわからないけれど、暇だ。


近所の人たちは毎年このケーキ屋で予約するのが流れになっているらしいが、今年は黒野くんが考えたクリスマスケーキがパンフレットに載っていて、それが一番の人気。


そのとき――カラン、カラン。
鈴の音が鳴り、ひとりの女性が入店した。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。どのケーキがおススメですか?」

「ええっと、そうですね、この苺のタルトがこのお店の目物になっておりますが、このチョコケーキは店主のお孫さんが手掛けられて私は個人的に大好きです」


昔からおばあちゃんが作ってきた苺のタルトは安定して大人気だけれど、この黒野くんが考案したチョコケーキは甘すぎず、胸やけがしない大人なチョコケーキで大人には人気のある商品だ。


「そうなの……」

「はい」


ショーケースの中を見つめる女性の目線が細く、切なそうになる。
物思いにふけったような、なにかを思い出しているようなそんな素振りにも見える。私の思い違いでなければ。


「よければ今クリスマスケーキのご予約も承っておりますので、こちらをどうぞ」


カウンターに常備してあったパンフレットを女性に差し出した。