純な、恋。そして、愛でした。



一度頭をぽんと撫でて黒野くんは悲しそうに笑った
。最近の彼はとても表情が豊かになった。
喜怒哀楽がちゃんと伝わってくる。


それは彼が変わったのか、ずっと一緒にいるから私が彼の表情の変化に敏感になったのか。両方かもしれないけど。


黙って頷くと無理に笑って黒野くんが「気長に待ってる」と目を細めた。


大好きなのに応えることができない。なんでなの。なんで。でも怖い。……なにが?


たぶん、たぶんだけど。男女の仲になるのが、怖い。交わってしまうのが怖い。求められることが怖い。


また妊娠して、また守れなかったとき。私はきっと立ち直れない。だから怖いんだ。
でもキスぐらい……大丈夫って何度言い聞かせても拒否してしまう。


夜も、まともに寝られなくなった。寝られたと思ったら一時間しか経っていなかったり、眠いのに寝られなかったり、睡眠をとっていないのに眠気も来なかったり。


精神的に参っているのが自分でもわかる。もともと痩せていた身体も更に細くなった。


身も心もボロボロ。なんとか形を保っていたはずなのに、もう粉々のように感じる。


「送るよ」

「うん」


いつものように黒野くんが私を駅まで送り届けてくれるようなので素直に甘える。
外に出ると、中との気温差に身震いした。


だけど寒いのは身体のはずなのに心も凍えているような感覚かするのは気のせいかな。吐く息は白く、空気は澄んでいる。


以前は自然に繋いでいた手が離れていることが、気持ちまで離れていきそうで怖い。もう、大切な人は失いたくなのに。


「クリスマスどうする?」

「え?」

「二十四と二十五は店が忙しいからムリだけど、その前にどこか行こう」

「うん」

「俺いろいろ考えとくから」

「うん、ありがとう」



歩く音が走り去る車や雑踏に混ざり合う。


すれ違った見知らぬ恋人たちは仲睦まじく肩を寄せ合いながら歩いて行った。
肌寒い季節は恋人たちの距離を自然に縮めるのかな。


もうずっと胸もとが痛い。痛くない瞬間がない。
気が遠くなるような毎日に、無理に笑う。いつまでも心配かけたくないから。


「じゃあ、気をつけてな」

「帰ったら連絡するね」

「ああ」


手を振って黒野くんと別れた。