純な、恋。そして、愛でした。



着替えを準備して脱衣所に行くと、お風呂に入る。裸になってお腹辺りを見て悲しくなる。


大きくなっていたわけじゃない。でもこれからも大きくならないことを考えると胸が詰まる。


髪の毛と身体を洗って、シャワーで流すとさっさとお風呂を後にした。
髪の毛を適当に乾かしてベッドに横たわる。部屋の明かりは点けなかった。


もう眠りたかった。考えてしまうことがこんなにも辛い。


だけれど眠りに落ちることはなかった。朝日が昇るのを、カーテン越しに見た。


黒野くん宅で寝てしまったのが敗因かもしれないけれど、あんな仮眠程度で朝まで眠れなくなるなんて。
こんなにも“無”になりたいと思ったことはないかもしれない。


父が亡くなった時も相当落ち込んだけれど、比じゃない気がした。悲しみなんて比べるものじゃないのだろうけど。


今になって本当の意味で母の気持ちが理解できた気がする。
あの時、最愛の夫が死んで、娘の私に気が回らなかった、母の喪失感。
この気だるげで、やる気といったものをすべて取り除かれたような虚無感。


それでも食いっぱぐれないように母は仕事を始めた。そりゃのめり込んで忙しさで寂しさを埋めたくもなる。


大切な者の死は、どうやったら乗り越えられるというのだろう。
思考を巡らせば巡らせるほど、無謀なことのように感じられた。


目覚ましが鳴り、起き上がると顔を洗って化粧をした。
できた隈を隠すように、いつもは使わないコンシーラーを目の下に叩き込んだ。血色も良く見えるようにチークも濃いめに。


リビングに行くと母と朝食を頂き、母と一緒に家を出た。


風の温度がだんだんと冷たくなってきていて、秋色になってきたように思う。朝は特に。


輝いて見えていた通学路も、今はその真逆。自分が置かれている状況で見える世界が違うことを初めて知った。悲しみの世界は、こんなにもモノクロなのか。


私は教えられてばかりだね、君に。君を、この世界に誕生させてあげることはできなかったくせに、私ばかりがたくさんのものを与えてもらっている。


ことごとく、母親失格のような気がしてくる。本当にごめんね。


「志乃!」


登校してすぐ、教室に足を踏み入れた私に向かって楓がダッシュで飛びついてきた。


物凄い力で首と背中に腕をまわされて、抱き寄せられる。いきなりのことで驚いていると、楓の肩が震えていることに気がつく。


まさか、泣いてる?


「どうしたの、楓」

「どうしたのじゃないでしょ! あんなメッセージ送り付けておいて、既読無視するし、電話も出てくんないし、心配するでしょうが!」