純な、恋。そして、愛でした。



「うん。食べる」


靴を脱いで、洗面所に向かい手を洗った。リビングに行くと美味しそうなハンバーグとサラダがお皿に盛りつけてあって、椅子に座るとお茶碗によそられた白ご飯が目の前に置かれた。


スープはコンソメベースのものが用意されており、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。


私は今のうちにと、黒野くんへ無事に帰宅したことをメッセージで送信した。


お母さんが正面の席に座って、どちらからともなく「いただきます」と手を合わせた。
安定して母の手料理は美味しい。美味しくて、涙が出そう。
母は先生から話を聞いている最中、私の背中をさすり続けてくれていた。


母の寛大な優しさが、壊れかけた心を支えた。


「明日の夜はなにが食べたい?」

「もう明日の話?」

「献立考えるの大変なんだから志乃も考えてよ」

「んー……じゃあ、カレーかな」

「その次は?」

「お魚系で」

「わかった」


明日や、その明日の話をするのはその先も私に生きていてほしいから?
あ母さんは本当にわかりやすいな。


そんなに危惧しなくとも私は……。


「ごちそうさま」

「おかわりしてもいいんだよ?」

「ううん、いいの」


食器類を流しに持って行き、汚れを水で落とす。母が「置いといていいよ」と声をかけてくれたので、遠慮なく「ありがとう」と疲れていた私は自室に向かった。


ベッドに仰向けで寝転がる。
精神的にも、肉体的にも今日は疲れた。泣くのは。心にも身体にも響く。


辞めようと思っていた学校にも明日から卒業するまで行かなくてはならない。
予定していた未来はすべてキャンセルとなった。


昨日の私は今日がこんなにも最悪な日になるとは微塵にも予期していなかった。
想像していたことは、当たり前にやってくると信じていた。


バカだな、本当。もっとできたことはなかったのか。やるべきことはなかったのか。なにか私の人生の中で、なにか一つ、なにかすることができたら結果は変わっていたのかもしれない。


そういった後悔の念が、押し寄せて引かないのだ。


医学的な難しいことは私にはわからない。お腹の中で元気に育つために必要だったものがそもそも足りていなくて、妊娠を継続することができなかったと説明はされた。


それでも納得することはできない。私に全く責任がなかったとは言えない。産んであげられなくてごめんと、謝罪の言葉ばかりが頭を支配して揺るがないから。