純な、恋。そして、愛でした。



黒野くんの話によるとどうやら三時間ほど寝てしまっていたらしい。
ドリンクを取りに行っている短い間に熟睡しているものだから、驚かせたみたいだ。


「ごめんね」

「気にしなくていいから。冷たい飲み物持ってくる」

「ありがとう」


水分を出し尽くした私は水分を欲していた。それをわかっているのだろう黒野くんの優しさは温かい。


戻って来た黒野くんの手には水の入ったコップが握られていた。受け取って水分補給は完了。


黒野くんが、ベッドに座る私と面と向かうようにして床に胡坐をかいた。
いつも見上げているのに、今は見下ろす形になっているからか、落ち着かない。


目が腫れているのだろう、すごく重い。目を開けているのがやっとだ。私を見上げる彼めがけて少しだけ笑ってみせると黒野くんも微笑んだ。


そして黒野くんが膝立ちをして私と目線を合わせる。伸ばされた手、指先が頬に触れた。切れ長の目が艶っぽく、伏し目がちになり、顔が近づいてくる。


一連の色っぽい動作に、私も目を閉じて受け入れようとしたその瞬間。


「いや……っ」


自分でも気づかないうちに顔を俯かせ、キスを拒否していた。突然得体の知れない恐怖が襲ってきたのだ。
ほんの一瞬だった。気づいたら勝手に身体が黒野くんを拒否していた。


「ごめん」

「違うの、嫌じゃ、ないの……っ」

「いや、俺がいきなりしたのが悪いんだ。ごめん、怖がらせた」


傷つけたかもしれない。
そう思ったのだけれど、どうフォローをしたら良いかわからずに黙ってしまう。
なにを言っても、上手く伝えられないと思った。

勝手に身体が拒否したって素直に言ったら生理的に受け入れられなかったのだと傷に塩を塗ってしまうし、私からキスをしてもまた拒絶しないとは言い切れない。


そうなると、状況は悪くはなっても良くはならないだろう。


ただ、黒野くんのことは好きだし、赤ちゃんを失って泣く私のそばにいてくれて本当に助かったのは本心だし、勘違いして欲しくなかったので手を伸ばして黒野くんの手に触れた。


それが精一杯の弁明だった。


「大丈夫、わかってる」


黒野くんの答えはそれだった。優しさに、寛大な心に、私はただただ甘えている。


しばらくして黒野くんに帰ることを告げた。そしたらいつものごとく「送る」と言ってくれて、二人で部屋を出た。


リビングにいたおばあちゃんに挨拶をし、黒野くん宅を後にする。


「黒野くんとおばあちゃんの役に立ちたいから、バイトは続けるね」