そのあとの処置のことは、思い出したくもない。痛みももちろんあったし、なによりとても辛かった。


処置の最中、もういないんだって思うと涙が止まらなくて、絶対元気に産んであげたかったから、赤ちゃんに心の中で謝り続けた。


元気に産んであげられなくてごめん。お腹の中で死なせてしまってごめん。こんな母親でごめん。


なにが足りなかったんだろう。私はなにをしていれば、君に会えたのだろう。
考えても考えても、答えなんか見つかるわけがなかった。


私が一度でも“なんで私のところに宿ったの?”って思ったから? 妊娠が発覚したとき、一瞬でも最悪だって思ったから? ねえ、なんで?


私、覚悟はもうできていた。会いたいって、本気で思ってたよ。


周りに迷惑はかけるかもしれないけど、それでもできるだけ自分で稼いで、育てて、笑って、怒って、苦しんででも、君と生きていこうって未来を思い描いていた。なのにどうしてなの……?


まだ、男の子か女の子かもわかってなかった。どっちだろうって、黒野くんと話してたんだよ。


名前の参考書を寝る前にニヤニヤしながら読むのが一日の最後の楽しみだった。
お腹を撫でながら君に話しかけるのも、好きだった。


それなのに、君はもう、いない。この世界のどこにも。世界の色を見ることなく、私のお腹の中で死んでしまった。たった、四ヶ月弱の、短い命だった。


【赤ちゃん死んじゃった。もういないよ。助けて、黒野くん】


病院を出てすぐ、アプリでメッセージを送った。


そしてお母さんに先に帰るように告げるとひとりにしたくないと母は言った。だけれど私が笑って大丈夫だよと言うと、渋々了承してくれた。


「美味しいハンバーグ作って待ってるから」

「うん……ありがとう……」


何度も振り返ってくれる背中にほのかに笑って応えた。ようやくその背中も見えなくなって表情が顔からなくなった。


スマホがさっきからずっと震えている。きっと黒野くんだろう。黒野くん、なんて言うのかな。なんて慰めてくれるのかな。早く会いたいな。


「……っ……」


だけど気持ちと行動がついて行かない。会いたいけど、声が聞きたいけど、電話を取ることが出来ない。


そのまま何も出来ずにいると、震えが止まる。それに安心した私がいた。


会いたいし、声が聞きたいけれど、それ以上に私の声で事実を伝えることが……怖い。怖いんだ。


なんて言えばいい? なんて言って、説明したらいいの?


手が震える。さっきまでお腹の中にいた赤ちゃんがもういない。