怒られたのに、彼の声には優しさが混じっていて、黙らざるをえなかった。


熱く、真剣な眼差し。喉が潰れるように痛い。街灯が暗闇の景色を淡く露出させる。


車がどんどん近くを走り去っていくのを横目で見ながら、ゆっくりとした時の流れに身を任せた。


「俺だって散々考えた。妊娠した女を好きになるのは、簡単なことじゃない。守ることも、想い続けるのも容易くない。たくさんお前とその子のこと、考えた。でもお前への気持ちは全然薄れねーし、守りたい、そばにいたいとか、甘ったれた理想しか出て来ねーんだよ」

「…………」

「どうやったら信じてくれるかわかんねーけど……信じてほしい。これからなにがあってもお前のそばにいる。この気持ちが本物だって証明してみせるから……」



震える君の声に触発されて涙が頬を絶え間なく流れていく。

今、私、無償の愛に触れている感覚がするの。目に見えないものなのに、おかしいよね。


私と君の間、そこにある気がする。今、感じている。錯覚じゃない。
黒野くんの愛情が、私の目の前にある。


「お前の、志乃の、気持ちが知りたい」


見上げる。目を潤ませた彼の瞳に、静かに声を消して微笑みかけた。


「好きだよ」

「じゃあ……」

「絶対後悔しない? 離れていかない? 私、黒野くんにたくさん迷惑かけるかもしれないよ?」


「約束する。絶対に。俺の人生すべてをかけてお前に証明してみせる」


手と手が触れる。繋ぐと温もりが直に伝わってくる。人を好きになることを知り、今私は誰かに想われることを知った。


黒野くんの瞳からも一筋綺麗な涙が零れ落ちる。誰かに愛されることって、こんなにも幸せなことなの? 好きな人の好きな人になれた幸福感に、涙と笑顔が同時に浮かぶよう。


親からの愛情とはまた違う。安心感と不安の紙一重な一面を持ちながらも、でも繋がった気持ちはこんなにも満たされている。賭けたみたい。心を君に預けた。


繋がれた右手とは反対の方の手が私の顔に伸びて来る。私とは違って大きく、こわばった、優しい手。指が不器用にも私の頬に当たり涙を拭われる。


そして手のひらが頬を包む。
瞳と瞳がとらえあって、顔が引き寄せられていって目を閉じる。


生まれて初めて、想いを寄せ合ってした口づけは、心から幸せでした。


出会えて良かったって、そんな一言じゃ表わせきれない。同じだけの想いを寄せ合って通じたこの気持ちは恋? 愛? 運命?


どんな綺麗な言葉を並べても、しっくりこないや。 
これから先、ずっと一緒にいたら見つかるのかな。
君への想いに、名前が。


唇を離すと二人見つめあいながら笑った。これ以上ない極上の幸せだった。