純な、恋。そして、愛でした。



おばあちゃんを残して私たち三人は一階に下りた。厨房に足を踏み入れると中央の作業台に箱が一つ置いてあって、そこまで歩くと黒野くんが箱から丁寧に出来上がったケーキを取り出した。
私たちはそれを固唾をのんで見つめる。


現れたのはカラフルなケーキだった。六等分に色が異なっている。
もしかして、これって……。


「もともとバラバラだった味の違う六種類のケーキを繋げてワンホールにしました」

「すごい……」

苺が乗ったショートケーキや、チョコレートケーキ、それからスフレのチーズケーキと、レアもある。フルーツが盛りだくさんのケーキもあるし、その隣はモンブランかな?


バラバラだったものをただくっつけただけの不格好なケーキじゃない。計算して、きちんとはまるように形を揃えたんだろう。


真ん中にあるプレートには『れおんくんお誕生日おめでとう』 とのメッセージがチョコペンで書かれてある。


その字も、とても綺麗。息子さんの名前は『れおん』というのか。


「ありがとうございます、本当に、助かりました」

「いいえ、早く息子さんのところに帰ってあげてください」

「お代は……」

「いいんです。それ全部俺の試作品で、売り物じゃないので」

「それはさすがに……」

「じゃあ、いつか俺が自分の店を持ったときに息子さんとケーキをたくさん買いに来てください」


黒野くんの提案に木田谷さんは「わかりました」と渋々了承した。確かに、急遽お願いしたのにこんなに素敵なケーキを準備されて無償で帰るなんて気が引けると思う。


「あ、ねえねえ志乃ちゃん」

「はい?」


木田谷さんを見送ろうと外に出た黒野くんに続こうとしたら、後ろにいた木田谷さんに小さな声で呼び止められる。


「お腹の子の父親って、黒野くん?」

「えっ⁉ ち、違いますよ!」


いきなりそんなことを言われてテンパってしまう。ついつい大声になったし、顔の中心に熱が集中した。


「そうなの? 俺が切羽詰まって話しかけた時、彼が咄嗟に君の前に出て俺から守ろうとしているように見えたから、そうだと思ったんだけど……」

「え?」


そう……だったの、か?
記憶を辿っても、あの時黒野くんがどうしていたかわからない。よく、見ていなかったかもしれない。