純な、恋。そして、愛でした。



「これつけて。それからこれはケーキの写真と値段の一覧表な。うちのレジ古いから、値段手打ちしてお会計するんだけど、まだ全部はすぐに覚えらんねーだろ?」

「ありがとう」

「なんかわかんないことあったら聞いて。奥で作ってるから」

「わかった」


受け取ったエプロンをつけて、一覧表を眺めながらディスプレイと照らし合わせていく。
迷惑かけないように少しでも早く仕事覚えなくちゃ。


今までも何度かアルバイトはやって来たけれど、これまで見たいになあなあには働きたくない。


烏滸がましい考えかもしれないけれど、黒野くんの夢のお手伝いができているみたいで嬉しいんだ。


黒野くんが店番していた時間、これからは私が代わりに店番することで、ケーキの研究をする時間が確保できるなら頑張れる。


「ありがとうございましたぁ!」


常連さんらしき人たちが何人か来店されて「あら新しい人?」なんて気軽に話しかけてくれて、私も笑って「はい、よろしくお願いします」なんて言ってみたり。


こうやって人と接することがこんなに楽しいって思わなかった。新たな発見かも。


「どう? 少しは慣れた?」


声をかけられて振り向くと、黒野くんが真っ白な衣装に身を包んで立っていた。いわゆるコックさんのような格好だ。


「まだまだだよ」

「きつくねーか?」

「うんっ。全然平気」

「そうか」


もしかして心配して様子見に来てくれたのだろか。


「心配してくれてありがとう」

「ふん」


鼻で笑って奥に引っ込んで行った彼に笑った。私はお客さんが来ない間は布巾でお店の中を綺麗にしていった。


やっぱり食べ物扱うお店なのだから綺麗にするに越したことはないだろうし。
お客様を相手にしない時間だって時給は発生しているのだから無駄にできない。


「そろそろ閉めるぞ」

「え、もうそんな時間?」 


黒野くんの呼びかけに壁に取り付けてある時計に目をやる。
閉店時間の九時を五分過ぎたところだった。
いつの間にそんなに時間が経っていたのか、気づかなかった。


「お店のシャッターの閉め方なんだけど……」


黒野くんが奥の厨房から鉄の長い棒状のものを持って来ていた。
それを手に店の外に行くと、お店の玄関上の丁度引っかかるようになっているところに引っかけてシャッターを降ろしかけた、その時。


「あのっ、もうお店は終わってしまいましたか……っ?」