純な、恋。そして、愛でした。



「うん、行って来ます」


母と一緒に家を出た。
学校と職場は逆方向だから家の前でそのまま別れる。


私の心は今日の空と同じように晴れやかだ。澄み切った青。
そしてそれを際立たせる真っ白な雲。
上を見ながら歩いていた私は、そのなんでもない風景に想いを馳せる。


一日一日、なにかが変わっていく。


昨日までうまくいってなかったことが、今日、よくなる。最低最悪だと思った夏休みの最終日から少し経って、考えがどんどん変わっていく。状況も環境も。


なにがきっかけで人生が変わるか、わからないんだ。私は十七年生きてきて、初めて知った。


今日はどんなことがあるのだろう。
明日は、明後日は? 十年後は?
こんなに人生の奥が深いこと、実感したことない。


例えば今すれ違った人はどんな人生を歩んでいるのだろう。私より波乱万丈な人生を歩んでいるのだろうか。


人の数だけ人生がある。
私には私の人生がある。


守るべきものが出来たからかな? こんなこと考えたことはこれまでなかったのだけれど、今私は“生きなきゃ”って、漠然と思っている。


今までなんとなく、人と同じ人生をなぞって生きてきた。
みんなと同じように学校に行って、勉強して、友だちをつくって、なんとなくみんながしているから、高校に行かなきゃと受験をして高校生になった。


内容はそれぞれ違えど、学生、のくくりで守られて生きて来た。
勉強する内容を提示されて、淡々と面倒くさいと駄々をこねながらこなしていく。
それが本当に身になったのか確かめるテストを消化して、大人への階段を一段ずつ進んできた感覚だ。


でも、これからは違う。私は同級生たちとは決別した道に行く。


もうこれをしなさい、あれをこなしなさいと、うるさく言われることはないけれど、母親になるのだから、自分で考えて、行動していかなきゃいけない。


自分の力で生きていかなきゃいけないんだ。
そういった自覚が芽生えてきている。しっかりしなくちゃいけない。



学校へ着くと廊下で黒野くんの背中を発見した。私は駆け寄ると背中に突進する。


「うお!」

「おはよう、黒野くん」

「び、びっくりした……」

「うふふ、それは良かった」


企みが上手くいってご満悦。自分でもニヤニヤしちゃうのがわかる。


「昨日お母さんに話したんだ」

「うん」