純な、恋。そして、愛でした。



そこからお母さんと距離を取った。
でも違ったんだ。私の取るべき行動は、距離をつくることじゃなかった。

悲しみを分け合えば良かったんだ。
こうやって体温を分け合って、支えあうべきだったのだと、今ならわかる。


最愛の夫を亡くして悲しみにさいなまれている母を一人にするんじゃなくて、寄り添ってあげれば良かった。抱きしめてあげれば良かった。


今からでも遅くないかな。支えあうことが、できるかな。


「お母さん」

「なに?」

「明日、ハンバーグが食べたいな」


くっついていた身体を離して、恥ずかしさを隠しながら言うと母が微笑んで「しょうがないわね」と笑った。


私たちはたくさんすれ違ったけれど、きっともう大丈夫だね。うまく繋がったね。


これもすべてこの子のおかげだ。この子がお腹の中に宿ってくれたから、気づけたんだと思う。


君には、感謝しかないよ。本当にありがとう。元気に産まれて来て、絶対会おうね。
その日の夜は、ぐっすり眠れた。久しぶりに幸福感の中で眠りに落ちることが出来た。





次の日、朝目覚めると母が朝ごはんを作って待っていてくれた。


「おはよう志乃」

「おはよう」


こうして朝の挨拶を交わしたのはいつ以来だったかな。
私が起きるより前に家を出ていた母とは生活リズムがことごとく合わなかった。
いつもは朝ごはんを作ってすぐ家を出ていたのだろう。


「お母さん仕事は?」

「ん? いいの。朝早く行って他の人より余計に仕事してただけだから、今までより少し遅く出ても問題ないの」

「そっか」

「ほら食べて」

「うん。いただきます」


あまり脂っこいものが食べられないことと、果物や野菜だったら食べられることを昨夜話していたら、それに合わせてサラダと冷ややっこなどを作ってくれたようだ。


豆腐の発想はなかった。これなら食べられるんじゃないかと提案されて食べてみたら大正解だった。あっさりしたものなら果物や野菜以外でも食べられそう。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「お母さんも!」