「最低な人だから、この子の父親って名乗ってほしくないの。一人で産むつもり」
「一人でなにができるの?」
「なんでもできるよ。働いて、ちゃんとこの子を完璧に育ててみせる」
「出来るわけないでしょ、子育てをなんだと思ってるの!」
「なんでそんなことわかるの⁉」
「私はお父さんがいてもあなたに寂しい想いをさせた! 最初から一人で完璧になんて無理よ!」
「……っ……」
言葉に詰まる。なんて言えば納得してくれるの? なんと言ったらこの命祝福してもらえる?
ただ私はお母さんに認めてもらいたいだけなのに。
「お母さんには迷惑かけないから……」
「違うのよ、志乃。そういうことじゃないの」
「え?」
「迷惑は、かけていいの。志乃はお母さんになるけど、それでも私の子どもには変わりないんだから」
私がお母さんになるって、それって……産んで、いいってこと?
「わがまま言っていいのよ。我慢しないで。お父さんのことは気づいてあげられなくてごめんね。いっぱいすれ違ってごめん。反抗期だと思ってた。寂しさのSOSだとは思わなかった。だからそっとしておいたんだけど、お母さん、逃げて……たんだろうね。お父さんがいなくなって目の前が真っ暗になって、どんどん変わっていく志乃のことどうしたらいいかわからなくなったし」
母が立ち上がって、私に近づく。そして母は隣に座って私のことを抱きしめた。
「もっと早くこうやって抱きしめてあげればよかったね。ごめんね」
久しぶりに感じる母の温もり。涙が滲み出て、流したくないのに勝手に溢れて来る。母の背中にしがみつくと嗚咽が漏れて来た。
強くなろうと思った。泣かない自分になろうって決めた。気丈に振る舞いながら寂しさを押し殺していた自分から、大切なものを守れる温かい人になるって決心したのに、こんなの、格好つかない。
でも、ようやく、私の寂しさが母に伝わった。
流れてくる。母の体温が。冷え切った心に、注がれている。
これが……愛情?
「母親になるって、わからないことだらけでしょ。迷うものよ。私も志乃の母になって十七年、まだ迷い続けてるんだもの、志乃も不安でしょ?」
「おか……さん」
「だから一人で、なんて言わないで、困ったことがあったら助けるから、頑張ってそのお腹の子を育てましょう」
「うん……っ、ありがとう、お母さん……っ。それからいっぱい反抗してごめんなさい」
心配かけようと外出する時間をわざと増やした。髪色を明るくした。子どもまでつくった。



