「お母さん……私、妊娠してるの」
今私、親不孝なことを言ったのかもしれない。
真っすぐ、目を逸らさずにお母さんを見据える。母は瞳を揺らして、薄ら笑いを浮かべた。
私はひたすらに表情を変えないように努めた。本当のことを言っているのだと伝わるように。
「ねえ、嘘でしょ? 悪戯だよね?」
「違うよ」
「お母さんのこと嫌いだから、意地悪してるんでしょう?」
「違う。そんなこと、しない」
母が言葉を重ねるたびに声が震えていく。先程の冷静な声は取り繕っていたことがわかる。私は自分の意地を見せるように目線を鋭く尖らせ、逸らさない。
「今三ヶ月だよ」
「いや、聞きたくない」
「聞いてよ、逃げないで」
「嫌だって……っ」
「いつまでそうやって私から逃げるつもり⁉」
怒鳴ると、母は目を丸くして嗚咽を我慢するように身を屈め、椅子に座る。
私は母が嫌いなわけじゃない。
でもその弱弱しい態度はイラつかせる。自分だけ悲劇のヒロインで、いつも不幸なのは自分だけってそういうのが犇々と伝わってくる。
私を本質的に見ようとはしない。父が死んだ時も、今だって。
「私、産むから」
「ダメよ、そんなの……」
「決めたの、もう。私はちゃんと逃げずに子どもと向き合える母親になる。寂しさにもちゃんと気づいてあげて、悲しいことがあったら真っ先に私に相談できるように、私はこの子から目を外したりしない。……例え、最愛の人が病気で亡くなっても」
はっとするように母が顔をあげる。私はもうあなたみたいに泣かない。
ひとりで寂しくて、暗い部屋で泣いていた頃の私とは違う。
もう強くあらなきゃいけない。守るべき命を授かった。
もう、私は、独りぼっちじゃない。
「本当に私は……ダメな母親ね……」
「…………」
「お父さんが死んだとき、志乃も悲しかったよね」
静かな語りに、自分の心臓の音と息遣いだけ聞こえる。そしてしばしの沈黙が続いた。
「……父親は、なんて言ってるの?」
「別れた。他に彼女がいたみたいで、鉢合わせたら従妹にされた」
自嘲気味に言うと、母は目を見開いた。私は続けた。



