名前についての書籍も多いな……。
性別もわかってないからまだ私には早いのだろうけど、でも男の子用も女の子用も買って、読み耽ってあれもいい、これもいいって悩みたい。うわ、やりたい。
悩みに悩んで三冊を手に、レジに向かった。帰ったら早速読もう。内心ワクワクしながらお金を支払った。
そのあとモール内にあるスーパーに寄って果物を色々と買った。いつもならメイクコーナーにも立ち寄るのだが、これからはなるべく無駄な出費は控えないと。
両手に荷物を持った私は真っすぐ家路につく。
明るい時間に帰宅するのにも違和感を感じなくなった。ようやく正常な日常を取り戻したような感覚。
お腹に新しい命を授かったことは、十代の私にとったらイレギュラーなことなのだろうけど、悪いこととはもう思わない。寧ろ覚悟を決めた私にとったらプラスなことのように思えてならない。
冷え切った心の温度を取り戻してくれたし、なにより独りぼっちだった私に守りたいものができたのは大きい。
赤ちゃんの存在を打ち明けるイベントでは友だちとの仲も深めてくれた。
今、心は微熱があるようにぽかぽかしている。これは夏が残した軌跡なんかじゃ決してない。
リビングで買ってきた果物を整理し、終えるとソファに座ってスマホに溜まっていた遊びのお誘いメッセージに返信した。夜遊びはもうしない絶対。
毎日送られてくるものすべてにお断りの返信をしているから、きっとすぐ見切りをつけられ、メッセージも来なくなるはずだ。
アプリの友達欄に、連絡先を交換したばかりの黒野くんが反映されていることに気がついて、スクロールする手を止めた。アイコンが初期のままなのがまったくもって彼らしい。
変顔の自撮り写真でも送り付けてやろうかなって思ったけれど、ブロックされたら嫌なので今日のところはやめておいた。
そのままソファに寝そべってスマホを扱っていると急激な睡魔に襲われて私は抗うことなく意識を手放した。
「んん……」
物音に気づいて目が覚めたのはそれから程なくしてからだった。頭も目も冴えないまま起き上がると、リビングの電気がつけてあってうまく瞼を上げられない。
乾いた眼球、まばたきを繰り返すと段々視界がクリアになっていく。
キッチンの四人掛けのテーブルの前に母が立っているのが見えた。そして手には私が買った書籍たち。母の目線がそれらからゆっくり私の方へと移行する。
「これ、なに……?」
母の声はとても冷静だった。
特に焦る気持ちもわいて来ない。逆に自分から話題を提示する手間が省けたのだから、良かったのかもしれない。
目と頭は、すっかり冴えてしまったけど。
「志乃?」
名前を呼ばれて顔を上げた。お母さんは私になんと言って欲しいかな。
違うよって、その本はお母さんが考えている理由で買ったものじゃないよって、否定してほしいのかな。



