純な、恋。そして、愛でした。



「あのさ、お前、俺んちで働かね?」

「黒野くんちで?」

「ばあちゃんしかいないから、放課後少しの間だけでも店番してくれたら助かる。俺もたまに手伝ってるんだけど、俺は作る方もやってるからさ。それに具合悪くなったりしたら二階で休んでくれていいし、時給は高く出してやれないけど」


突拍子のない提案に驚いたけれど、率直に悪くないと思った。時給うんぬんよりも、私の事情をよく知り、理解のある黒野くんがいるお店で働けるのはでかい。


動きの激しいところでは働けないだろうし、ケーキ屋の店番を甘くみているわけではないが、肉体労働じゃないぶん女の私にもこなせそう。


「それ、お願いしてもいい?」

「むしろ助かる。ばあちゃんもいい歳だし、お前が店番してくれるなら、俺もケーキづくりに専念できる」

「契約成立?」

「ああ、そうだな」


お金も稼げて、尚且つ黒野くんとおばあちゃんのお役に立てるなら一石二鳥だ。


でも本当に良かった。働き口がすぐ決まって。これでお金稼いで赤ちゃんを迎える準備ができる。
あとは母にこのことを打ち明けるだけだ。


改札を抜けて、丁度やってきた電車に乗ると昨日のように二人で空いている席に腰かけた。
これから働かせてもらって、連絡先を知らないのは色々不便だろうからと言われて連絡先を交換した。


登録された黒野くんの名前と番号とアドレス。じっと眺めていたら黒野くんに鼻で笑われた。心外だった。


家の最寄り駅に到着して黒野くんとは別れた。名残惜しさは日を跨いだのに健在だった。いや、その気持ちがずっと心にあったわけじゃないから、カムバックしたと言った方が正しそうだ。


駅からほどなくして近くのショッピングモールにたどり着く。まずは馴染みの本屋に向かった。馴染みと言っても、私がお世話になっているのは書籍のほうじゃなくて、併設してあるCD屋の方だ。


これでも音楽は好きだし。本屋の方はたまについでで雑誌を立ち読む程度。活字の方はお世辞にも得意じゃない。だけども、そんなこと言っている場合ではない。


まじまじと陳列された本棚を眺めていく。適当に『はじめてのママ』と銘打ってある本を手に取った。


絵本のような大きさだが、ある程度分厚く、妊娠する前の月経についてのことから妊娠してからひと月を区切りに色々な注意事項や起こることなどがイラストと共に書かれてあり、とてもわかりやすい。


生まれる前に準備するリストや、生まれた後の離乳食のことまで明記してある。これは凄い。


ついつい立ち読みしてしまっていたがこれにしようと開いていたページを閉じてまた辺りを見渡した。