「はぁ……」
ひとしきり笑い終えた彼が目尻の涙を拭って、そして私に睨みをきかせる。
「これで満足かよ?」
「ええ、とても」
「悪趣味なやつ……」
「笑いたくなったらいつでもやってあげるからね〜」
「お断りだバカ」
「ふふふ」
憎まれ口を浴びながらも、私は自然と笑っていた。
幸せだと思ったからだ。
こんな幼稚なやりとりで、小さなことで、幸せを感じられるだなんて私は知らなかった。
再び歩き出した二人は沈黙を貫いた。足音だけが耳をくすぐる。
こそばゆい雰囲気に包まれているのだけど、沈黙は不思議と痛くない。
むしろ心地よさまで感じているのだから、このままでいい。黙ったままでいい。
私、黒野くんのこと、もっと笑わせたい。
不愛想な彼ももちろん格好いいのだけど、笑った顔を見てしまった私はいつもの不愛想な彼じゃもう嫌だ。
性格上ずっとニコニコさせるのは難しいだろうけど、たまに笑うときは私のそばにいて欲しい。
この気持ちはなんだろうね。
そばにいて欲しいどころか、私の隣じゃなきゃ嫌だとすら思える。
今朝の彼と同じ、これは独占欲?
好きの条件っていったいなんなのだろう。
どう感じたら好き? どんな変化があれば好き?
わかりそうで、わからない。手が届きそうで、届かない。
あと少しなはずなのに……もどかしい。
あと一歩? それとも十歩? あと一体何歩行けば答えに辿り着けるの?
急いては事を仕損じるとか、急がば回れとか、誰が考えたかわからないことわざは沢山あるけど、私はすぐにでも知りたい。恋がどんなものなのか。愛がどいったものか。
そうじゃないと教えてあげられない。お腹の中にいる、我が子に。
「あ、コンビニ……」
駅まであと少しのところにあるコンビニエンスストア前で立ち止まった。
黒野くんに目くばせをすると「寄りてえの?」と言ってくれたので素直に頷いた。
「求人誌欲しいんだよね」
「バイト探してんの?」
「出産にお金は必要でしょ?」
「まあ、そうだよな」
すると彼は顎に手を置いてなにかを深く考えこんでいる様子。私はそれを観察するように見つめた。



