言えた。言った。……言ってしまった。


楓は表情を変えずにゆっくり目だけをしばたたかせている。その仕草から感情が読み取れずに私は彼女の名前を一度だけ口ずさんで続けた。


「どう……思った……?」

「ごめん、志乃」


突然の謝罪に驚いて身構える。するとそれも束の間、楓が私の身体を抱きすくめた。いきなりのことに戸惑いを隠せないでいると「ほんとごめん」とまた謝られた。


「なんで楓が謝るの?」

「だって志乃のことだから一人で死ぬほど悩んでたんじゃない? それなのに私全然気づかなかった。最近様子がおかしいとは思ってたけど、なんとなく触れて欲しくないのかなって遠慮してた。志乃ってほら、みんなとつるむけど、どこか一匹狼体質なとこあるじゃん? 踏み込めない私がいたんだよ、ずっと。ずっと、志乃との距離感に悩んでたけど、今打ち明けてくれてそんな自分を殴ってやりたくなった」


耳元で響く力強い後悔の念を含んだ楓の声。涙腺を刺激されて、抵抗することなくその刺激に身を任せて涙を流す。


「私、胸を張って志乃の親友って言って良いのかって迷ってた」

「うん……っ」

「でもこの話打ち明けてくれたってことはさ、もう胸張っていいよね?」


――親友だって。
楓はみなまで言わなかったけれど私には届いた。ちゃんと届いた。


「当たり前じゃん」


だから泣きながら、私は笑ったんだ。離れると楓まで泣いていて、おかしくて笑みを重ねた。二人分の鼻を啜る音とクリアな息を細かく吐く笑い声が雰囲気をつくる。


言葉の意味通り、死ぬほど悩んでいたことをたった一言で見破る彼女が胸を張れないほど、親友のハードルは高くしていない。


私が無意識に作り上げていた壁に悩ませていたのだと思うと途端に申し訳なくなる。


「でも昨日彼氏とは別れたって言ってなかった?」

「うん、赤ちゃんできたって言ったらもう来るなって……」

「はあ⁉ なにそのいい加減な意見は、お前の子供でもあるのに無責任すぎん⁉」

「でもいいの、もう、関わりたくない」


彼のことはもう忘れるって決めたから。


「志乃はいいと思ってても私は無理。ほんと一発殴ってやりたい……」

「楓、さっきから野蛮なこと言い過ぎ」

「だって志乃はそう思わない⁉」


怒りに満ちた心を飾らずそのまま吐露する彼女にしばしの苦笑。もちろん私もそう思っているのだけど、楓が代弁してくれているからそれでいいと思える。