大きくため息を吐いて呆れたように彼が手で顔を覆う。私はわけがわからずにバカにされていることは明確なので頬を膨らませて黒野くんを睨んだ。


だけどすぐ我にかえる。
もしかして黒野くんは、私とこれ以上仲を深めたくないという意思表示をしているのか……?


「ちげーから」

「え?」


なんで思ったことに対して返事されたのだろう。もしかして今私思ったことが口から出ていたのだろうか。


口を両手で抑えると「それもちげえ」とまたしても心を読み解かれてしまった。


「涙目になったり、手で口元隠したり、わかりやす過ぎんだよ」

「……凄すぎて言葉が出ません」

「俺にだけならいいんだよ別に、けど、他の男にそういうことするのはやめろ」

「……独占欲?」

「……バカ、お前ほんと心の底からバカだ」


顔を真っ赤に染め上げて肩を落とすと再び顔を私から隠した。私はその姿が面白くて大笑いしてしまう。


ねえ黒野氏、それって認めてるも同然だよ? わかってる?


ほらまただよ。身体の中心から湧く、この熱いの、私この感覚がするの、悪くないって思うんだ。


心のキャンパスに勢いよくペンキをこぼされるように一瞬で染まる。色で言ったら赤。でももしかしたらブルーかもしれない。昨日はそうだったから。


いろんな色が重なって新たな色になる。これは間違いなく君が作者の絵。だからきっとこの私の知らない、未知の色は……君色なのだろうね。


まあ、兎にも角にも、ポエマーになってしまうほど私は毒されているようだ。なにかに。もしかしたら恋とか、そんなものかもしれない。
私、彼が好きなのかも、しれない。






流れる雲は優雅に空を散歩していた。それを私はぼうっと見つめて授業を受け流す。なんて言っているかわからない、たいして興味もない英語。
日常生活で使わないと文句を垂れ流されがちな数学。本当にそれは日本語なのかと疑問に思う古典。


そうしていたらいつの間にか昼休みになっているんだから、私はタイムスリップに成功してしまったのかと思った。冗談だけど。


「楓、お昼行こう」

「うん……? 教室で食べないの?」

「たまには静かなところにしようよ」

「わかった」