生活感のあったあの家の謎が解けた。


まばたきを繰り返し、寂しそうな横顔をしている黒野くんを励ますように、繋いでいる手に力を込めた。


黒野くんはびっくりしたように肩をびくつかせる。


私は今、隣にいるよ。君の力になるかはわからなかったけれど、そういった意味を込める。


その意思を汲み取ってくれたのか否か、黒野くんが目を細めて視線を送って返事をするように握り返してくれた。


伝わっていたら、嬉しい。


「私たちって似てるね。私も父親を中三の夏に亡くしたんだ。それ以来母親は私のこと避けるし、寂しくて悲しくてグレちゃったよ。私がいくら毎日夜遅くに帰宅したってお母さん気づかないんだもん。寝てるし。髪の毛を明るくしたってピアス空けたって怒られなかったよ」

「……似てるな」

「ね」


身体が電車の動きに倣って揺れる。
私たちは愛に飢えた者同士。
愛し方もわからないまま大人でも子供でとない歳になった、孤独の中にいる、似た者同士。


愛に嫌われて私は反骨心を抱き、彼は人と関わることを億劫とした。


「だからかな」

「ん?」

「俺、お前のこと気になんの」


黒野くんの言葉に、放課後突然話しかけられたときのことを思い出した。


「いきなり話しかけられたときはかなりびっくりしたよ」

「ああ、お前が辛そうだったから」

「……自販機の件は?」

「やめろ、俺の黒歴史なんだから」


赤面した顔を大きな手で覆う黒野くんが可愛らしく思えてくすくす笑ってしまう。
それを見た黒野くんが「おいバカやめろ」と反抗して来たので肩で肩を小さく攻撃した。


「私の名前はバカじゃないからね」

「知ってるよ」

「じゃあ名前で呼んでよ」

「やだよ」

「ケチ」


鼻で息をして返事をした彼にほっぺを膨らませて威嚇していると痛くない頭突きをされた。
唇を尖らせて無言の文句を告げると彼は切れ長の目を細めた。


私たちは互いに励ましの言葉はかけなかった。わざとかは定かじゃないけれど、私はなんと声をかけても白々しく聞こえそうで嫌なんだ。


わかるよとか、悲しかったねとか、そんな言葉を求められているとも思わなかったし、私もそんな同情はいらない。


ただこうして隣にいてくれて、笑っていられたら、幸せに思える。
取り繕わなくてもいい。
そのまま、ありのままでいられるところがあるだけで私は安心できる。


黒野くんの隣はとても居心地がいい。
ずっとここにいたいっておかしなことを願ってしまうほど。