「ダメっていうか……っ」


ああもう、心臓の音がうるさい。黙っていて欲しい、今は。
なかなか話し出せないでいると彼氏が一言、「生理?」と聞いてきた。どうしようかしばらく悩んで、そういうことにしておこうと小さく頷いた。本当は、違うけど。そんなわけ、ないのだけど。


のどが締めつけられたように痛んで、必死に考えて準備していた言葉は消えた。


「なんだぁ。じゃあ俺寝るから、志乃もおいで」


のんきにそう言いながらベッドに行った彼に手を引かれ、抱きすくめられたまま、横になる。
そして聞こえてきた均一な吐息。肩を落として一回転すると整った彼の寝顔を見る。彼が一度寝ると全然起きないことは知っている。


――ねぇ、私、妊娠したって言ったらどうする?


声に出さずに問いかけて、先ほど病院の産婦人科で言われた先生の言葉を思い出す。


『ここ、白くなっているのわかる?』


お腹に冷たいジェルを塗られて、エコーとかいう機器をあてられてモニターに映し出されているものを見る。


テレビが故障した時になるような砂嵐のようにも見えるそれの中央あたり、担当の若い女の先生がゆびさす先に目をこらした。


白い、点のようなものが見えた。


「ここに、赤ちゃんがいます」


先生のその言葉に絶句する。

私のお腹の中に赤ちゃんが……いる?
そんなまさか。


「どうするかよく考えてくださいね。そのお腹の中のお父さんとご両親にちゃんと相談すること。時間が進めば進むほど手術の負担は大きくなるし、その若さで産むことも、あなたの人生においてとても大きなことになるはずだから」

「はい……」


頷いたけれど、どう考えたって産めるわけないよね? だって私まだ十七歳だよ? 学校だって、あと一年以上は通わないといけないわけだし。


それに妊娠したなんて、誰にも相談できっこない。友達にも、親にも。今だって彼氏にすら、言えないのに。どうすればいいかなんて、わかるはずない。


あーもう、どうして私だったんだろう? 私の友達にも彼氏とそういうことする時ゴムつけないって言ってた子いるのに、なんで?
どうしてお腹の子は、私のところに宿ったりしたの--?


彼氏が熟睡したところで私は家を出た。ゆらゆらおぼつかない足取りで自宅まで帰り、そしてベッドにダイブすると現実から逃げるように眠りについた。


……なにも考えたくなかった。


どれくらいの時間が経ったのか、夢で落とし穴にでも落ちたかのように身体をびくつかせて起きた。枕元に置いていたスマホを手に取ると夜中の三時の情報を得る。


変に目が冴えていて、こんな時間に起きていたら、お腹の子に障るのかなってやんわり考えたりした。
明日から、いやもう日付変わって今日からもう二学期か。


本当にこの先どうしよう。君のおかげでお先真っ暗だよ。


「おーい、聞こえるのー?」