純な、恋。そして、愛でした。



彼はどんな街で育ち、どんな両親に育てられたのだろう。恵まれた環境だっただろうか。


気になる。どんな子供時代を過ごして、初恋はいつだったのか、恋のひとつもしたことないこの私が気にしているだなんて、笑ってしまうな。


「はあ、寝よう」


電気を消して、腹を冷やさないように布団をかけた。暑いので足と上半身は出したままにしておく。音楽をリモコンで停止させて電源も落とした。静寂に包まれる部屋に目は冴えたままだ。


寝ても寝ても眠いけれど、寝つきが良いかと言われればそれはノー。眠気があるからと言って、すぐに寝られるわけじゃない。夜は特にあれこれ考えてしまって寝つきは悪い。


タイムリミットは刻一刻と迫ってくる。
わかっているのに、私の決意はどちらにも行けないで揺蕩っていた。






目が覚めて鏡を見たら今日も顔が腫れていた。ここのところ毎日むくんでいる気がして、お化粧を施す前にマッサージをしている。


テレビで前に見た美容法を思い出しながら、リンパに流すようにと念を送りながらやるのだ。


リンパが一体なんなのかは知らないのだけれど、こういうのはやることに意味があるのだと信じている。


リビングに行くと水をコップ一杯飲んでお弁当の準備をした。
お弁当といっても中身はフルーツ。
りんごとバナナはいつも家にストックしてあるからそれを一口サイズに切るだけの簡単な作業。


とはいえ代わり映えしないから今日帰る時、にスーパーにでも行こう。
いや、商店街に行ってもいいかもしれない。果物と野菜などを売っているお店を昨日見た。


「うっ……」


そのとき。なんの前触れもなく強烈な吐き気に襲われた。すぐ近くの流しに身を屈め、液体を吐いてしまう。


なにも食べてなかったせいか個体は出てこなかったし液体も少量。
ひとしきり出し切ったあと、肩で息をしながら上体を上げた。


ああ、しんどい。
いつまでこのつわりと付き合わなければいけないのだろう。


お腹の底から湧き上がる猛烈な吐き気、胸の焼けるような感覚。
お腹の赤ちゃんが早く決断しろよって怒っているように感じる。


先ほど使ったコップで口を濯ぎ、血色の悪い顔を隠すために赤いリップを重ねた。


思わぬところで時間を食い、追われるように自宅を出た。電車に間に合わないと確信したけれど、走ったりはしなかった。赤ちゃんに障ったら嫌だったから。


「高峰、遅刻だぞ」


担任の棘のある声色に「すみません」と素直に謝った。やけに大人しいと思ったのか先生はそれ以上なにも言って来なかった。


私はいつも先生たちにスカートが短いとか髪色を戻しなさいとか言われ、ことある度に「別にいいじゃん」と反抗心満載の態度をとって来た。