純な、恋。そして、愛でした。



家に帰っても、誰もいない。あるのは真っ暗な家、作り置きされた冷えたご飯とそれを温めて食べるように書いた手紙だけ。


そこには微塵の温もりも存在しない。
虚しくて泣きながら食べたご飯は味がしなかった。


どうせ家にいないのなら、どこか人のいるところに行こう。そう思って悪い友達をたくさんつくった。


未成年のくせに大人の真似をする集団。煙草やお酒を見よう見真似で嗜んだ。悪いことをする反骨心で母への反抗を縁取っていた。


そうすることでしか心を正常に保てなかった。寂しさを埋めるにはひとりではどうしても追いつかなかったんだ。


「ごめん、わざわざ」

「急になに」


最寄りの駅に着いて口を開いた。ポケットに手を突っ込んで私を見下ろす視線から逃げるように目線を下げた。


「送ってもらって」

「別に、することもないし」

「そっか」


夜風に頬を撫でられて顔を思い切ってあげる。まともに真正面から見たらその誰とも違う整いすぎた顔にうっかり見惚れてしまいそうになる。そうならないように、笑って「またね」と手をあげた。


背中を向けて歩き出す。いつものように定期券をかざす準備をしながら改札を目指した。返事は、なかった。


こんなに名残惜しくなるなんて、送ってもらうの、やっぱりよしてもらえばよかっただろうか。それでも彼の優しさ、好意は受け取りたかった。どうしてかはわからなかったけれど。


帰ってからお風呂に入って、お腹は空いていなかったから適当に音楽を流しながら部屋でくつろぐことにした。少し前の私だったら家に帰っていない時間だ。


友だちや彼氏からアプリを通してメッセージがいくつか届いている。
そのどれもが遊びのお誘いで、適当に理由をつけて全て断った。


妊娠が発覚してから夜遊びは一切していない。というか毎日体調を崩していてそれどころじゃなかったし。
今日は珍しく具合が良かったから、黒野くんに着いて行けたわけだけど。


それにしても黒野くんの作ったケーキたちはどれも本当に美味だった。
すごいな、夢があって、目指している未来が明白にある。私にはないもの。


ベッドに横たわり、右手をお腹の上に置く。左手で空気を掴んだ。
オーディオからは好きな外国人アーティストが綺麗な高音を響かせている。


目を閉じたらそこに黒野くんの不愛想な顔があって、思わず笑う。
もう少し笑ったらいいのに。
伝えたところで私のアドバイスに耳を貸さないことはわかっている。