見た目にも綺麗なカラフルなケーキがよっつ。白、ピンク、茶色、緑。とてもきらきらして見えて、女子が大好きな、思わずSNSに投稿したくなるものばかりだ。
だけど不安なことがひとつ、私は今絶賛つわり中なのだ。果たしてこれらを満足に食してまともに感想を述べることができるのだろうか。
「無理しなくていい。一口ずつで構わないから」
「……これもしかして黒野くんが作ったの?」
「ああ、そうだけど」
目線が妙に真剣だったからそう思ったのだけど、これ黒野くんが作ったとはなるほど凄い。
趣味の延長線上で作った単なるお菓子作りの括りではないのがわかる。
作品と言った方がしっくりくるぐらいだ。
フォークを手に取り手を合わせて「いただきます」と白の、苺が乗ったショートケーキを一口。
甘くて口どけのいいスポンジが口の中で溶ける。甘いのだけど、それほどしつこくなくてもう一口と次に手を伸ばしたくなる。
「……美味しい」
「ほんとか?」
「本当だよ、今までで一番美味しいショートケーキだよ」
言葉には出さなかったけれど、黒野くんは嬉しそうに少しだけ口元を緩ませていた。
笑顔、と呼ぶには程遠かったけれど、初めて見た表情に素直に嬉しく感じた。
もっと崩れた笑顔を見たい、そう願ってしまう自分がいて戸惑う。
動揺を感じ取られないように私も誤魔化すように笑った。
次々とケーキを口に運び、完食はできなかったのだけれど、全ての感想を黒野くんに伝えることができた。
参考になったかはわからない。
だって、全てにおいて絶賛することしかできなかったから。
それにしても意外だった。
黒野くんにこんな才能があったなんて、誰が想像できただろう。
無口で変わり者で、一匹狼の黒野くん。
彼がこんなにも可愛く、しかも美味しいスイーツを作るだなんて、目から鱗も出やしない。
「俺の夢なんだ。パティシエになることが」
「素敵な夢だね」
黒野くんが淹れたてのティーを差し出してくれて、受け取った。
ひんやり冷たい飲み物に、甘く焼けていた胸もと辺りが晴れていくようだった。
どうしていきなり夢について教えてくれたのかはわからない。
だけど黒野くんについて色々知りたいと思っていたから、もっと聞きたいと貪欲にもそう思った。
謎に包まれた君のこと、もっと知りたい。
「でも、なんでパティシエなの?」
とても気を良くしていたから、今なら彼になにを聞いても答えてくれるような気がした。



