純な、恋。そして、愛でした。



もしか、しなくても。


夏の残暑はまだまだ続きそうだ。放課後になって一歩学校を出るとあまりの暑さにげんなりしてしまう。


昇降口前の階段を降りるとき、足を踏み外して転びそうになった。
なんとか転ばずに足踏みしただけで済んだけれど、かなり心臓にきた。危なかった。


もし酷く腰やお腹を打ちつけていたらと思うと、怖い。改めて倒れこまなくて良かったと心から安堵して深い息を吐いた。


「ドジ」


ポケットに手を突っ込んで、私の横を通り過ぎた彼が目もくれずにそう言った。
そのあまりの態度にぷくっと頬を膨らませるとすたすた歩く彼の横に並んだ。


「……なんでついて来るんだよ」


チラッと横目でこちらを見た黒野くんをわざとらしく目を細めて睨んだ。


「酷くない? 転びそうになった美女がいたら普通“大丈夫?”って声をかけるでしょ」

「ああ、美女だったらな」

「売られた喧嘩は買うからね?」


酷い言い草だなまったく。黒野くんが「あっそ」と言って前に向き直したので、不服に思いながらも面白そうだと彼の行くところにこのままついて行くことにした。


やっぱり背高いんだな。私との差すごいある。


そんなことを考えながら並行して進むこと数舜、彼は面倒くさそうに顔を歪めて「ストーカーはやめてくれ」と立ち止まった。


「こんなに堂々とストーキングするストーカーいると思う?」

「お前」


背の高い彼から見下ろされて、極めつけにその鋭い眼差し。威圧感が半端ない。だけど負けじと彼の懐に一歩近づいてみる。


「私の名前はお前じゃないから、ほら、いっぺん志乃って呼んでみ?」

「あーもうまじお前めんどいわ」


上目遣いで見ると、呆れたように肩を落とす彼。
けれどそんなことに構う私ではない。
なかなか引かない私に、観念したかのように「なにが望み?」と言う彼。


「遊ぼうよ」

「お前、彼氏いなかったか?」

「なんで知ってるの?」


私君に彼氏がいるとか、そんな深い話した覚えないのだけど。


「友達とよく話してんじゃん。あれでひそひそと話してたつもり?」


ああ、なるほど、寝ていたと思っていたけれど起きて聞いていたのか。全部。あまりよろしくない趣味だと思うけど、突っ込まないほうがいいのかな?


「別に、彼氏は関係ないし」

「ふーん」