ホームルームが終わって授業が滞りなく進んでいった。
「そんな甘ったるいもの飲んでたっけ?」
「たまにはね」
昼休みになって、苺ミルクを飲む私を楓が不思議そうに首を傾げて見ていた。
しかも食べているのはタッパに入れたりんごときたのだから変に思うのはしょうがない。
このりんごは皮を自分で剥いて、食べやすい大きさに切って持参した。
柄じゃないのは自覚しているけれど、果物しか満足に食べられないのだからしょうがない。
だから目の前で盛大に目を丸めている友達には触れないでおいた。私も深く触れられたくないし。
少し調べたのだけど、妊娠したら食の好みが変わるらしい。そして匂いに敏感なるとか。
実際私は匂いに敏感になったと思う。
廊下で中年のおじさん先生とすれ違う時、異常に加齢臭を感じるし、それに……。
「…………」
自分の席に座っている私の横を彼が通る。そして真後ろの席に着席した。
黒野陽介、彼の匂いにはすごく敏感になった。なぜかは不明。鼻につくわけじゃない。
その反対に彼の匂いを嗅ぐと落ち着くから、私は変態にでもなったのだろうか。そんなわけないと思いたいけど、なんの柔軟剤を使っているのかは聞きたい。
楓が「トイレ」と教室を出たのでひとりで黙々とりんごを頬張る。
シャリシャリいい音が口内に響いて、ごくりとそれを飲み込んだ。
そして出来るだけ不自然にならないように後ろに振り返った。
机の上に横向きで突っ伏して腕をまくらにして目を閉じている彼の顔は悔しいけれど美しいなって思う。耳にはイヤホンをして、まるで世界をシャットダウンしているかのようだ。
私は君に、問いたいことがたくさんある。
なぜそんなにも頑なに誰とも関わろうとしないの? どうして昨日私に声をかけてくれたの? 気になる。無性に、歯がゆい。
解放されている窓から風が舞い込んで、黒野くんの黒い髪が揺れた。さらさらと優雅に動くそれに触れたくなって、やめた。なに考えてんだ。
ほんとおかしい。どうかしている。
「……なに」
「え?」
ぼうっとしていて気づかなかった。彼がその目を開けて、私を見ていたこと。目が合ってそらしたくなったけれど、そんなの私らしくないと我慢した。
「ねえ、黒野くんって何者?」
「はあ?」
「どうしてそんなに人と関わろうとしないの?」
率直に疑問に思っていたことをぶつけてみた。彼は不機嫌そうな目線で私を見たままむくっと起き上がった。
「別に、めんどうなだけ」
「じゃあなんで昨日は声をかけてくれたの?」



