「…ごめん、怪我ない?」


黒髪短髪。

引き締まった体をしている彼は、教師だろうか。

―…見たことのない、顔だが。

否、もしかしたら、覚えてないだけかもしれないが。

沙耶は人の顔を覚えるのが、不得手である。

だから、胸はって、違うとは言えないのである。

「こら、黒橋ー、廊下は走るんじゃないぞ」

そう言いながら、現れたのは学年主任。

「ごめん、緊急事態!見逃して!あ、あと!先生ったら、柚香に仕事を押し付けすぎ!で、新しい先生だっけ?新しい先生、ぶつかって、ごめんなさい!」

ほぼ言い逃げのような形で、再び、走り出す。

階段をかけ上がり、渡り廊下を走り抜け、渡り廊下の近く…図書室の扉を、乱れた息を整えながら、開ける。