「でね、もっと、困るのが―…」


父親から聞かされた、どうしようもないのろけ話を真姫に話そうと口を開きかけたとき。


「…あの、やめてください!」


どこからか、その声が聞こえた。

「…ん?」

――どうしました?沙耶。

耳の聞こえない真姫が首をかしげる。


「いや、なんか聞こえるなぁって、おも…」


途端、聞こえた悲鳴。


「真姫!ごめん、お弁当もって、生徒会室に行ってて!私、ちょっと見てくる!」

それにコクコクと頷いた真姫を見て、沙耶は走り出す。


廊下を全速力し、突き当たりを右に曲がる。

ざわめいていた食堂の近くにいては聞こえなかったけど、ここまで静かな環境だと、流石に―…


「こっちか!」

どうやら、今、通ってきた廊下とは向かい側にある渡り廊下の近く…図書室から聞こえるようだ。

なるほど。

図書室なら食堂の近くにいて、聞こえるのは当たり前か。

階段をかけ上がるため、職員室前の廊下を走っていると…。

「ぶっ…!」

何かと、ぶつかった。