――あ、でも、柚香が呼んでませんでした?


真姫と友達になって、一週間。

意気投合した私達は、共に行動していた。


「うん、そうなんだよね。だから、お弁当食べるのさ、生徒会室でもいい?」


鞄からお弁当箱を二つとりだし、真姫に手渡す。

生徒会室は、便利だ。
周りの目を気にすることないし、何より、柚香が生徒会長というところが、何より良い。

人と関わるのが苦手でそんな下劣な考え事をしている沙耶の目の前で、お弁当を受け取った真姫は微笑んだ。


――はい、全然。私は構いません。そんなことより、沙耶、いつもお弁当、ありがとうございます。


行動を共にすると言っても、やっぱり、敬語は抜けないらしく、名前だけは呼び捨てでという約束のもと、真姫は、今でも敬語を使ってくる。


最も、手話では怪しいが、たまに聞こえる声や筆談では、敬語である。


「良いんだよ~お母さんも私にまともな友達が出来て、喜んでたし」

――まとも、ですか?

「うん。昔から、柚香としかいなかったからね。お母さん、密かに心配していたらしくて」

――優しい、お母さんですね。

「うーん、そうだね。まぁ、お父さんが私を二の次にすることが多いからかな」

――?二の次、ですか?


不思議そうな真姫。

そりゃ、そうだ。


「うちのお父さん、お母さん至上主義だから。お母さんを中心に世界が回っているって言っても、おかしくないくらい」


会社経営をする沙耶の父親は、日々が忙しい。

沙耶が幼い頃だって、仕事のため、あまり外に遊びにつれていってもらった記憶はない。

まぁ、でも、父さんはそういう人間であるということを既に理解しているし、母さんを深く愛している点では、呆れるほどだが、悲しいことにまともに人間らしいと言えるところが、その部分しかない父親なので、なにも言えない。


――愛されているのですね。

「そうね~あの愛は、異常だと…」

母さんが死んだから、絶対に父さんも死ぬと沙耶は確信している。