「……帰ります」


ぐったりと意識を手放した沙耶を抱き上げて、相馬はそう言った。


「また、後日に話しますから。これ以上、今、話しかけないで下さい。俺自身も、混乱しているので……」


相馬が思い出させたくないといっていたのは、知っていた。


けれど、こうしなければ、犠牲は増えるばかり。


俺は、桜や薫を失わない為に、息子同然の健斗の子供である沙耶を追い込んだ。



最低行為だと、わかってる。


冷酷非道な”戮帝“という名に、相応しく。


「……いつになったら、終わるんや……?」


薫、京子、俺。


三人だけの、この部屋にそんな、京子の声が響いた。


「俺、夏翠んとこ、行ってくるわ……」


薫が、出ていく。


全てが、動き出す。


「……薫、今はまだ、動くなよ。機会じゃない」


忠告すれば。


「…………分かってる」


――何もできない、歯痒さ。


俺達は、どうしてこうなんだろう。


桜だって、美桜だって、沙耶だって。


普通の女の子なのに。