「何も、知らない……その通りですよ。でも、だからこそ、重いんです」


沙耶ちゃんの頭を撫でながら、相馬は窓の外を見た。


「記憶がないから、償えない。記憶がないから、身体に生じる。沙耶は、苦しむ。なら、記憶を返せば、楽になれるか?そんなの、誰にも分からない。分からないから、返せない。あんな記憶を、沙耶に見せたくない……」


沙耶ちゃんの前世は、知らない。


相馬の前世と、どんな恋をしたのかさえも。


知らないけれど、沙耶ちゃんは“裏切った”。


だから、罪を背負っている。


「そんなに、重いのか……?」


彼女の前世――……


「……沙耶は、俺を守るために俺を裏切ったと見せかけて、嫁いだ。そして、子供を産み……殺された」


「……殺され、、た?」


「沙耶が嫁いだ場所は、後宮。つまり、多くの女人がいるなかで、皇帝に見初められた沙耶の前世は、夕蘭は愛された。……子供を産んだあとも、愛された。生まれた子供は女の子だったけど……愛され続けて……嫉妬を買って、殺された」


「……」


重すぎるものに、絶句した。


そりゃ、思い出させたくないはずだ。