何もかも、変わらない。
……本当に、そんなことがあったら良いのに。
「あら……貴方は……」
病院の廊下で、突っ立って。
沙耶と夏翠の話が終わるのを待っていると。
見覚えのある、綺麗な女に話しかけられた。
「こんなところでお逢いするなんて……」
長い黒髪に、垂れ気味の優しい瞳。
闇に染まるそれは、ほんのりと光を灯して。
誰かに重なる。
「ユイラ」
唯一無二に呼ばれた名で、嬉しそうな笑顔を出す。
「健斗」
……紛れもない、仕事相手の社長夫婦。
「お久し振りです。御園社長。まさか、こんなところで会うなんて」
「ええ、お久し振りですね」
猛烈に、嫌な予感しかしなかった。
時間がたってしまうと、気が付かないが……
健斗と言う男は、何かと記憶に残る。
雰囲気とか、性格が。
大雑把だけど、仕事はできるし、面倒臭がり屋だけど、やらせたら、超一流。
何より、空気が極道のそれと同じ。
極道という闇の世界と、
普通の一般人の光の世界の狭間の俺たちは、
人を見分けるのが得意で。
極道ではないと答えたが、正直、信じられずにいた相手。
……そんな雰囲気のやつを、俺は他にも知っていた。


