「学校、病院、道端、家……起こす場所も様々で、幼い沙耶はよく泣いていたと、聞いてるわ」
「聞いた?泣いていた?」
引っ掛かりを覚える言葉に、首をかしげる。
「沙耶と私の関係は、沙耶の闇ができたあの事件のあとだからね。全部、聞いたってことになるの」
「……事件?それって、さっき、誤魔化した……」
「うん、そうそう。話すのは、沙耶が嫌がるから。何より、他人様の事情を、ペラペラ喋るのは良くないことでしょ?」
「まあ、そうだが……」
「だから、私の口からは話せない。で、泣いていたことだけど、沙耶は泣かないの。全くって、言って良いくらいに。沙耶の両親もたぶん、忙しいのを抜きにしたとしても、あの事件の日から見ていないんじゃない?」
あの事件。
その言葉だけでは、全く、わからない。
けれど、それが沙耶の人生を変えたことだけはわかる。


