「……お母様は、幸福者ね」


花を眺め、草蘭は笑う。


在りし日の、夕蘭のように。


「……泣かないで」


そっと、娘の手が頬に触れる。


「お母様は、貴方に幸せになって欲しかったんだから。貴方が泣いちゃ、意味ないじゃない」


わかってた。

あいつがそういう人間だってことは。

分かっていたから、腹ただしくて。

目をそらした、真実。


『人を愛すって、難しいね』


はにかんだ、お前に会いたい。

この腕に抱き締めて、伝えたい。


(失ってから、気づくなんて……)


“その通り”だと。


未来がわからぬ、我らは後悔無きように生き抜くのは、無理かもしれない。


それでも。


伝えておけば良かった。


何があっても、信じてるって。