「あー、それね、転入生が来るからさ、その準備」

「いつ?」

「今日かな…なんせ、十人くらいだし」

「はぁ!?」

思わず、大声を出すと。

「…」

周囲にいた生徒達が沙耶を見ながら、ヒソヒソと話し出す。

本当、あの噂ごときで失礼な。

毎回のことだが、いい加減、イライラしてくる。

「…チッ」

荷物を抱え直して、舌打ちする。

「ふふ、相変わらずねぇ…馬鹿みたいに、噂ばかり。脳みそが残念といっているよう…」

すると、隣から禍々しい雰囲気。

「柚香、面倒くさいからいいよ」

「…そう?」

「ん。で、転入生がなんだって?」

放っておけば、取り返しのつかないことになりそうなので、とりあえず宥めると、気を取り直した柚香が説明してくれた。

「その転入生たちに学校案内とかが必要でさ、今日、沙耶のクラスにも一人、女の子が転入して生きてるよ」

「へー」

正直言って、興味ない。

「過去にいろいろあったらしくてー、耳に障害持ち」

「…」

「んで、おとなしめの良い子ちゃん。どっかのクソビッチたちとは、違うから。沙耶、よろしくね?」

沙耶が気の抜けた返事をすることを、初めから分かっていたと言うように、柚香は笑顔で毒を吐いた。

「…私といて、巻き込まれないと良いけど」

沙耶は虐めの対象だ。

大人しく殺られる質ではないが、そんなおとなしい子が沙耶のそばにいて、被害は及ばないだろうか。

「沙耶がそう言うのは、分かってた。でもね?仕事を面倒くさいからやだって断るのはあっちなんだよ?そんな中でも、私を見捨てずに生徒会メンバーでもないのに、手伝ってくれる沙耶にご褒美あげてもよくない?」

柚香の言葉の言い回し。

「そりゃ、幼なじみだし、色々お世話に―…ん?」

なんか、違和感…いや、嫌な感じがする。

「ま、まさか―…」

「ん、そのまさか。…学校案内、手伝って?」

「はぁ…」

大抵外れない、柚香の言動。

本当、ドンピシャで泣きそう…