「小桜…?」

「…っ」


ぐいっと覗き込まれた瞳に言葉が出ない。
恥ずかしくて、照れ臭くて、切なくて。
訳の分からない感情がぐるぐる胸の中に渦巻いていく。


「どうか、した?」


大好きな茶色の瞳は切れ長でとても涼しげだ。
まるで私のこの心を見透かしているんじゃないかっていうくらいキラキラと眩しくて、須賀の全部が私のものだったらいいのにと。
いつも、いつも思ってしまう。

こいつの全てが丸ごと私のものだったら、と。


こんな想いは絶対須賀には言えない。
そして、きっとこんな事を思ってるなんて、須賀は知らないだろう。


…気付いて欲しいと思うのに。
…気付いて欲しくないなんて。
独りよがりもいいとこだ。
なんて、我侭なんだ…。


「よ、寄るな!バカ須賀!」

「小桜、顔、真っ赤。…熱、ある?」

「な、ないし!」


ぐるぐる振り回されて、気持ちが悪くなるくらいなのに、それでも好きで。
期待を持たせて欲しくないから、わざとつんけんするのに、全然須賀の態度は変わらないから。
聞きたい事が一つ、また一つと増えていく。


須賀の好きな人って誰?
少しは自惚れてもいいの?
傍にいても、いいの…?


言えない、口に出来ない言葉達。
だけど…。


「ねぇ、須賀?」

「んー?」

「あの、さ…」


須賀が知らない事を言ってみたいと思った。
それから私の知らない須賀を知ってみたいとも。

カバンを掴んでる手が汗ばむ。
遠くの方でセミが鳴いてるのが聞こえていたのに、一瞬だけ、それが消えた気がした。


「あ、あのさ、わ、私…っ」


小首を傾げる須賀に、ぎゅっと瞳を瞑って、俯き加減で言葉を口に仕掛けた時。