それでも何の返答も無く歩き続ける里中に痺れを切らしたあたしは――



「泉くん!」



つい、里中の事を下の名前で呼んでしまった。


「…っ!」



瞬間、びくりと肩を上がらせて里中はようやく此方を振り返る。



「…ごめん、橋本」


掴まれていた腕が、ぱっと離された。


「あ、ううん。腕は大丈夫なんだけど

何処まで行く気なのかな、って…」


そう本心を告げて里中の後ろを指差すと
其処はもう廊下の端で、所謂行き止まりだった。



「ちょっと心、此処に在らずって感じだったから…」


俯いた里中は唇を噛み締めている。


そうだよね、ショックだったよね。

昨日の今日だし…。



くるり、と突然後ろを向く里中。


その身体は心なしか震えていた。