先生、僕を誘拐してください。



「何校かオープンキャンパスでも行って、考えてもいいし。夜間の学校に通ってもいいし。もう少しだけ、夏休みの間考えてみましょう。ね」

「……」

私は小さく頷いた。
そして大人二人の前でわがままな子供みたいに拗ねてしまい、何も話せない自分が恥ずかしかった。

先生にチーズケーキを押し付けていた母を見ながら、二階へ上がろうとしてやめた。

そのまま先生が見えなくなるまでお父さんの遺影の前で座っていた。

大学……就職……。

色々とくそ面倒くさい。

今更少し揺れるのは、お父さんが亡くなる前までピアノの先生にあこがれた時期があったから。

ただそれだけ。

なんだが家にいても、つまらないことをぐるぐる考えてしまいそうで、ふらりと家を出てしまった。

家を出てもつまらないことを考える。

もし就職じゃない場合、夏休みはほぼ夏期講習で潰される。
就職の場合、じゃあ何をしようかと考えさせられる。

今家から出ていけばお母さんは心配しないだろうか。

それより夜ご飯の仕込みや、洗濯物を干して取り込まなきゃ。

いろんな悩みが、大きさに考えなく後から後から浮かんでくる。

ふらふらと歩いた私は、ボールの音が響く体育館の前に立っていた。