先生、僕を誘拐してください。



「だから無理強いはしたくない。けれど現実から逃げようとしているのが僕は嫌いです。僕は武田に嫌われてもいい。後悔をしないようにただ話を聞かせてほしいんだ」

お母さんの隣で、私は馬鹿みたいに固まっていた。

ぐるぐると頭の中で考えていたことが捕まえられない。
先生の言葉が脳や心を刺す。

「もう少し大人になる景色がゆっくりだったら良かったんだが、順風満帆にはいかない。けれど僕は、先生として君にもう少し自由な選択ができると嬉しいなと思っているよ」

私は下を向いて、ただ指先を眺めた。
一度決めたことだから、どうしても譲りたくないし私もたくさん考えて決めた。
先生の言葉は選択肢を広げるためにやさしい言葉ではない。
逃げている私に、遠慮なしに現実を伝えてくる。

「先生、この推薦入試って締め切りは夏休み後なんですね」
「そうです」

お母さんはおおらかに、のんびりと質問した後私を見た。
「美空は、お父さんが亡くなってからこの家を守ろうって頑張ってきたんです。だから今一度に言っても傷つけるだけです。私は、美空が生きてくれてるならどんな道でもいいかなって思ってたんですけど、もう少し掘り下げて考えなくちゃだめですね」

ふふふと自嘲気味に笑った。