「武田さん」
「……私」
少しだけ後ろに顔を向けるが、振り返りたくなくてそこでやめた。
「私別に憎んでない。存在さえ消してた。名前さえ覚えたくもない。親が殺されてないあんたは、余計なことしないで」
汚い言葉だった。吐き出すだけで自分自身も汚く、ひどく濁った泥水の中に沈んでいくみたい。
後味の悪い気持ちが広がっていく。
すごく不快で、すごく心が荒む。
朝倉くんを傷つけてもいいわけないのに、それでも自分の親を殺した相手のことを好きで、だから私に許してほしくて近づいたなんて、なんてひどい人なんだろう。
あの人は、隣にいたお姉さんを私に殺されても、同じ気持ちになれるのか。
「……不快」
じりじりと肌を焦がす、夏の太陽よりも身を焼けつくす。
ひどく不快で滑稽で、惨めだった。
朝倉くんのお姉さんだと思う人の声がまだ、廊下に響いている。
けれど私の聞かないふりをして部活へ向かう。



